2019年3月5日火曜日

米朝首脳会談再論

このBlogに投稿するよりもFacebookに投稿する方が技術的にはるかに簡単だ。
それでつい、先ずはFacebookに投稿するのが習慣になってしまった。
いったんFacebookに書いてしまうと、Blogに投稿することはさらに億劫になる。
さて、先日の二回目の米朝首脳会談の結果について。
大手メディアの最初の反応は、例によって「トランプの大失敗」を強調した。
しかし、日を追うごとに少しづつ論調が変遷して、今では合意失敗によって苦境に陥ったのはキムジョンウンの方だとする見方が大勢だ。その場合でもなお「トランプは北朝鮮の要求に妥協したかったのをポンペイオやボルトンが押しとどめた」などと飽くまでトランプの主体性を否定する論者が多いのには呆れる。
私は、トランプ大統領が合意を拒否して交渉の席を立ったのを知って、それはトランプ個人の衝動的な行動でもボルトンらの強い進言に嫌々応じたのでもなく、トランプを含むチーム全体の計画的なものだった可能性が高いと考えた。
それは前回の首脳会談後の共同声明の内容を冷静に分析すれば自然に解ることだ。
共同声明で明らかになったのは、要するに、北朝鮮はアメリカからの非核化の要求に応じない限り制裁を受け続けなければならないということだった。
今回の「決裂」は、そのことをキムジョンウンに思い知らせるために最も効果的なやり方だったと思う。だとすれば、前回と今回を合わせて、実に巧妙な交渉過程の組み立てだ。
ここに第一回米朝首脳会談の直後に私が書いた二つのFacebook記事を転載する。
20180617付Facebook
トランプは名を捨てて実を取った
今回の米朝共同声明について、メディアでの大方の評価は、「トランプは実を捨てて名を取った」だ。
私は反対だ。
トランプがノーベル平和賞を欲しがっているのは確かだろう。オバマもそうだった。
しかし、そんなことは世界平和の実現と何の関係もない。
メディアの論拠は、「CVIDの約束無しに体制保証を約束したから」だ。
北朝鮮現政権の体制保証などしていないことは前回の投稿で検証した。
一方、CVID(完全かつ検証可能かつ不可逆的な非核化)の文字がそのまま盛り込まれなかったことはその通りだ。
そのかわり、次の文言が明記された。
「Chairman Kim Jong Un reaffirmed his firm and unwavering commitment to complete denuclearization of the Korean Peninsula.」
すなわち、金正恩は「朝鮮半島の完全な非核化への確固とした揺るぎないコミットメント」を約束させられた。
この文言上(名)の違いが、実際上(実)どのような違いを生むのかが問題の核心だ。
そもそもこの首脳会談と共同声明にはどんな意味が込められていたのか。
過去何度も北朝鮮は約束を破った。もう約束だけでは信用できない。行動を確認するまで制裁/圧力をやめない。というのが出発点だった。
そこへ、今年一月以降金正恩が(その実態は曖昧ながらも)非核化をちらつかせ南北融和を喧伝して対話を強く迫った。
トランプは北朝鮮の言う「非核化」を手前勝手に解釈して対話応諾の電撃決断をした。
ちなみに、この手前勝手解釈について、メディアの大勢はトランプの無知によるものだと断じたが、一部の識者は北朝鮮の発言を巧妙に逆手に取った可能性を指摘した。
北朝鮮がアメリカの軍事攻撃を恐れ経済制裁に悩まされていたことはほぼ異論のないところだ。
共同声明でアメリカが得たものは、北朝鮮の非核化の約束だ。取り漏れたのは、「検証可能」の文言だ。制裁/圧力の緩和は触れられていない。
北朝鮮が得たものは、「検証可能」の文言を書かせなかったことだけだ。
更に、大メディアがことごとく無視していて私が注目しているのは、箇条四項のうちの第一項「The United States and the DPRK commit to establish new U.S.–DPRK relations in accordance with the desire of the peoples of the two countries for peace and prosperity.」だ。
この「in accordance with」以下の限定修飾句は、さりげなく添えられているが、金正恩の今後の行動を強く牽制することになるだろう。
すなわち、今後の両国の関係は、米国民のみならず北朝鮮国民の平和と繁栄への希求に沿ったものでなければならないと明記されたのだ。
というわけで、共同声明後アメリカは、経済制裁を続けつつ
1.北朝鮮が核ミサイル開発の再開のみならず非核化のサボタージュをしているとのなんらかの兆候があればいつでも軍事圧力の強化ないし軍事攻撃を実行できる。
2.アメリカの好きなときに、金政権が北朝鮮国民の平和と繁栄の希求に反した行動を取っていると主張して軍事圧力の強化ないし軍事攻撃を実行できる。
ということは、金正恩は今後完全査察を含む非核化に向けての具体的行動を取らざるを得ないだろう。
さもなければ、経済制裁を受け続けつつ、アメリカの軍事攻撃(斬首作戦、クーデター誘導を含む)の悪夢に怯え続けなければならない。
というわけで、私は、トランプが実を取り金正恩が名を取ったのだと考える。
20180613付Facebook
「体制保証」は誤訳かフェイクか
私も昨日の米朝首脳会談には拍子抜けした。
非核化の行程と担保について、もう少し具体的なことが発表されることを期待していたからだ。
しかし、共同声明をよく読んでみるとメディアの大方の論評ほどに悲観したものでもないことに気づく。
ここでは取りあえず、批判的論調の最大の根拠となっていると思われる「北朝鮮の体制保証」に絞って検証してみたい。
トランプは本当に金正恩体制の継続を保証してしまったのだろうか。
私が日経新聞を読み複数の地上波テレビニュースショーを見た限り、一部の識者の地味な論評を例外として、概ね、「してしまった」かのように報道されている。
この認識を前提に「他国の政権、それも独裁政権の存続を保証するなどというとんでもないことを言ってしまうトランプ」を声高に非難するコメンテーターまで存在する。
例えば、日経の13日朝刊の一面には、「体制保証を約束 共同声明」との見出しが踊り、その脇に「共同声明のポイント」として四項目のうちの二項目に「米は北朝鮮の体制保証、北朝鮮は完全非核化を約束」と大書きされている。
これは、正確な報道であろうか。本当に米国は北朝鮮の現体制の保証をしたのだろうか。
さあ、共同声明の原文を読んでみよう。(ホワイトハウスのサイトからダウンロードした原文全文を末尾に引用するので参照願いたい。)
まず原文には「体制保証」にあたる語句は存在しない!
和訳「体制」の原語と思われる英語は2ヶ所、和訳「保証」の原語と思われる英語は1ヶ所に発見できるが、この二つの英単語は、互いに異なる文脈のなかに使われている。
具体的に見てみよう。
まず「体制」にあたる原語「regime」が現れる原文は次の2文のみ。
「President Trump and Chairman Kim Jong Un conducted a comprehensive, in-depth, and sincere exchange of opinions on the issues related to the establishment of new U.S.–DPRK relations and the building of a lasting and robust peace regime on the Korean Peninsula.」
「2.The United States and the DPRK will join their efforts to build a lasting and stable peace regime on the Korean Peninsula.」
二つ目は一つ目の繰り返しであることは明らかである。
「to build a lasting and stable peace regime on the Korean Peninsula.」
難しい英語ではない。正確に訳せば、「朝鮮半島に永続的で安定的な平和的政治体制を築く」となる。
どう捻っても「北朝鮮現体制の保証」と訳すのには無理がある。それどころか、現体制とは異なる新しい平和的政治体制を新たに構築すると読むほうが余程自然だろう。
次に「保証」にあたる原語「guarantee」が現れるのは次の1文のみ。
「President Trump committed to provide security guarantees to the DPRK, and Chairman Kim Jong Un reaffirmed his firm and unwavering commitment to complete denuclearization of the Korean Peninsula.
つまり「北朝鮮の安全を保証する」と言っているに過ぎない。
同文の後半と合わせて読めば、北朝鮮が完全な非核化を約束する見返りに、アメリカは北朝鮮を軍事的に侵攻することはないという意味と解される。
さて、大メディアの誤報は、単なる読解力不足かそれともトランプ憎しの印象操作か。
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/joint-statement-president-donald-j-trump-united-states-america-chairman-kim-jong-un-democratic-peoples-republic-korea-singapore-summit/?utm_source=link&utm_medium=header
President Donald J. Trump of the United States of America and Chairman Kim Jong Un of the State Affairs Commission of the Democratic People’s Republic of Korea (DPRK) held a first, historic summit in Singapore on June 12, 2018.
President Trump and Chairman Kim Jong Un conducted a comprehensive, in-depth, and sincere exchange of opinions on the issues related to the establishment of new U.S.–DPRK relations and the building of a lasting and robust peace regime on the Korean Peninsula. President Trump committed to provide security guarantees to the DPRK, and Chairman Kim Jong Un reaffirmed his firm and unwavering commitment to complete denuclearization of the Korean Peninsula.
Convinced that the establishment of new U.S.–DPRK relations will contribute to the peace and prosperity of the Korean Peninsula and of the world, and recognizing that mutual confidence building can promote the denuclearization of the Korean Peninsula, President Trump and Chairman Kim Jong Un state the following:
1.The United States and the DPRK commit to establish new U.S.–DPRK relations in accordance with the desire of the peoples of the two countries for peace and prosperity.
2.The United States and the DPRK will join their efforts to build a lasting and stable peace regime on the Korean Peninsula.
3.Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.
4.The United States and the DPRK commit to recovering POW/MIA remains, including the immediate repatriation of those already identified.
Having acknowledged that the U.S.–DPRK summit—the first in history—was an epochal event of great significance in overcoming decades of tensions and hostilities between the two countries and for the opening up of a new future, President Trump and Chairman Kim Jong Un commit to implement the stipulations in this joint statement fully and expeditiously. The United States and the DPRK commit to hold follow-on negotiations, led by the U.S. Secretary of State, Mike Pompeo, and a relevant high-level DPRK official, at the earliest possible date, to implement the outcomes of the U.S.–DPRK summit.
President Donald J. Trump of the United States of America and Chairman Kim Jong Un of the State Affairs Commission of the Democratic People’s Republic of Korea have committed to cooperate for the development of new U.S.–DPRK relations and for the promotion of peace, prosperity, and security of the Korean Peninsula and of the world.
DONALD J. TRUMP
President of the United States of America
KIM JONG UN
Chairman of the State Affairs Commission of the Democratic People’s Republic of Korea
June 12, 2018
Sentosa Island
Singapore

2017年11月26日日曜日

日本株のアクティブ運用は特別か

記録のため、ちょうど一年前のFacebookへの投稿をここに転載します。

以下引用
Facebook 2016年11月26日

ある著名な「イケメン記者」から質問を受けたので、久しぶりに投資のことを書いてみます。

アクティブ対パッシブの論点において日本株は特別だという主張は、今まで幾度となく提示されてきました。

この「不思議」の実証的解明は、ぜひ専門家の研究に期待したいところですが、ここでシェアする論文に関連して、私のつたない知見から二三ご紹介したいと思います。

まず、市場の効率性が低いとアクティブが勝ちやすいという説は、理論的に怪しいということ。

市場の効率性が低いと、アクティブ運用の成績の分布(ベルカーブ)はなだらかになりますが、その中心が右(ないし左)に移動するわけではありません。


そもそも、市場効率性の強弱にかかわらず、パッシブ運用成績はいつでも平均にあるわけで、アクティブ運用者の競争相手は他のアクティブ運用者です。アクティブ運用者には上手いやつと下手なやつがいるとして、下手なやつの成績は必ず市場平均に負けるわけではなく、その周辺に偏りなく分布するはずです。これはコイン投げと同じです。とすると、結局勝負は上手い運用者どうしで争われることになる。そしてその平均が市場平均になるはずです。

ちなみに、以前この考えをバンガードの専門家にぶつけたことがありますが、賛同を得ています。

さて、それでもなお情報の非対称性が成績を分けるとしたら、すなわちごく少数の特定プロ投資家にだけアクセス可能な有効情報があるのだとしたら証取法違反の疑いが濃厚です。しかも恒常的にあるのだとしたら、日本の株式市場の構造的な違法性を疑わなければなりません。私は、無いと思います。


個々のインデックスの適正性については、専門家の研究に任せます。


もう一つの論点は、サバイバーズバイアスの問題です。周知のとおり、日本の投信市場は、商品(個々の投信ファンド)のライフサイクルが極端に短いという問題を抱えています。とすれば、サバイバーズバイアスが強く働くことが当然に予想されます。これも専門家の検証を期待します。

ついでに、10年間好い成績のファンドは存在しますが、それが今後の10年間も好い成績を上げるかどうかは全く予想できません。これは、いくつもの研究が実証済みです。

好成績の由来はほとんどがマグレだと思いますが、超能力も否定することが出来ません。冗談ではありません。私は様々な超能力の存在を信じています。しかし、残念なことに、あるファンドの運用者が超能力者であるのかどうかをあらかじめ判定する客観的方法は存在しません。あったら私は今頃億万長者で、その方法は絶対誰にも教えません。

最後に、一緒に仕事したこともあるバートンマルキールの次の言葉は印象的です。「アクティブが恒常的にパッシブを上回ることが出来ないと投資家に知らせることは、6歳の子供に本当はサンタクロースはいないよと知らせることに似ている。」


以上、参考になれば望外の幸せです。

2017年9月3日日曜日

難病の国

「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」

北朝鮮による日本攻撃のシナリオがいよいよ現実味を帯びてきている。

この間中国は領海侵犯および領空侵犯まがいの示威行為を急増させている。

この期に及んでもなお日本の政治は、冒頭の「決意」を変更する目途さえ立てられないでいる。

それを阻んでいるのは、何が何でも阿部下ろしを狙う大メディアと政治勢力、その宣伝に翻弄される「世論」である。

私はもとより阿部総理のすべての言動、政策を支持するものではない。例えば原発政策関連。

安倍総理のすべての言動、政策、人格を否定して止まない人々に強く反対するものである。

こと安全保障政策の大筋において、安倍総理を支持せざるを得ない。

大メディアと一部政治勢力がなぜこれほどまでに阿部下ろしに躍起となるのか。言うまでもなく改憲に最も積極的な政治家だからだ。

数か月前の第九条第三項付加論には驚かされ、反対もしたが、その後の朝鮮情勢の急変、今日ただ今日本がさらされている北朝鮮の軍事的脅威に鑑みると、阿部の異様とも見えた妥協案提言の背後にあったであろう並々ならぬ焦燥感に、いまや同情を禁じ得ない。

いや、総理に同情している場合ではない。私たち日本国民が、その子や孫も含めて世界から同情されることになり兼ねない状況に立ち至っているのだ。

「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」

憲法改正に断固反対する人々の論拠を突き詰めれば、日本を取り巻く諸外国の公正と信義は信用するが、日本政府の平和追及の意図は絶対に信用しないというものだ。

ひたすら平和を願いそれを表明すれば、どの国も日本をいじめることはない、平和を壊すとすればそれは軍隊(法制度も備えた)を持った日本だけだ、という恐るべきドグマ。

周りの国すべてが戦争をすることが出来る国であることを知りながら、日本だけは戦争ができる国にしてはいけない、という異常な信念。

占領時代のアメリカ政府のプロパガンダと、今に至るまで連綿と生き続ける左翼の反日プロパガンダが同調、相乗して日本人の深層心理に植え付けた病根だ、と言って間違いではなかろう。

その病根のなんと根強いことか。

「戦後レジーム」を壊すことのなんと難しいことか。

私はほんの半年ほど前まで、尖閣を取られて初めて日本は改憲を本気で考えることになるのかも知れないと心配していた。北朝鮮のミサイル・核開発がこんなにも速く進んでいると知らなかったからだ。

今では、改憲のきっかけは北朝鮮の攻撃になるのかも知れないと恐れている。

後者のシナリオの方が前者のそれよりも、直接的な被害ははるかに大きいと思われるが、どちらにしても遅すぎることに変わりはない。

あるいは、後者が起これば、改憲の実現を待たずして前者も起こるかも知れない。

それらが起こってなお一層改憲が困難となる可能性もある。つまり弱小国として列強へ隷従する道である。

これほどの窮地に日本を追い詰めた何者かを私たちは断固打ち破らなければならない。

厄介なことに、その敵の少なからざる部分が実は私たち自身の心の奥底に巣くっている。前述の病根である。

政策論としては、むしろ単純である。

短期的には日米同盟を最大限に活用しつつ北朝鮮との交渉に臨むほかない。

長期的には自立的防衛力を強化しなければならない。

より具体的には、一日も早い改憲と防衛費の倍増である。

その後は、自立化に向けた戦略的な日米同盟の修正と必要な防衛関連法整備である。

核武装オプションの検討が含まれることは当然である。

これらが成って初めて外交に実効性が伴うこととなろう。外交だけの外交など、誰が相手にするものか。

この単純な政策プロセスが一向に進まない根本原因が私たちの心の難病である。

ショック療法以外の処方が切実に望まれる。

2017年4月20日木曜日

半島有事の今後

ここへ来て「アメリカは攻撃するつもりがなかった」との報道と解説が相次いでいる。「主に日韓に甚大な被害がでるリスクが高いから」だという。

私が14日の夜にこのブログに書いたことだ。

「しかし、アメリカは本気度を北朝鮮と中国に思い知らせたのだ」というのが大方の解説だ。ここが私の考えと異なる。

私のような素人が公開情報をもとに推定し得る事情が、北朝鮮であれ中国であれ戦略ないし情報の専門機関の分析で解らない訳がない。もちろん日本当局も知っている。

関係諸国が皆分かっていてなお真面目に狂言を演じ会うのは、わずかな不確実性をめぐっての政治的化かし合い、とぼけ合いでもあり、それぞれの自国民および他国に向けての情報戦でもあるのだろう。

トランプ政府が中国や北朝鮮が怖じけづいたと本気で信じているとしたら、それこそ危ない。

やはり、アメリカと中国が朝鮮半島の将来とその他イシューを踏まえてなんらかの大合意を結んだか結ぼうとして、政治的即興劇を演じ合っているのだろう。

大合意とはもちろん(取り敢えずは)アジアにおける米中間の覇権の分担だ。

そこで米中が模索する朝鮮半島の将来像は、共通利害である非核化を大前提として、両勢力の実質的境界線を今までどおり38度線とするのか対馬の北に直すのかのどちらかだろう。

アメリカが、そして日本までも、あれだけ「中国の役割」が鍵だなどと宣伝しているところをみれば、後者が予定されていると見たほうがよさそうだ。もし前者だとしたら、中国はタダ働きをしたことになる。それはないだろう。

もし中国が手を尽くしても北から核を取り上げることができなかったら、アメリカが半島を取りにかかるのか、38度線で手を打つのか。
それはひとえにアメリカと北の対決の結果次第だろう。

しかし、結果以前にプロセスがまず恐ろしい。

2017年4月15日土曜日

トランプは北朝鮮を攻撃しない

トランプは「北朝鮮が核実験をやるとの確証に至れば攻撃するぞ。」と言っている。

ただし条件をつけている。第一に中国が適切な行動を取らないこと。第二に韓国が同意すること。

そして今トランプは、「中国はよく動いている。習は素晴らしい。」などと言っている。韓国が同意しないことはまず確実だ。

つまり、北の核実験があろうがなかろうが、ぎりぎりのところでアメリカは攻撃をふみとどまる、というシナリオができているのではなかろうか。

そのうえで、その後、米中の合意と協力に基づいて、一定の時間をかけて金正恩を押さえ込むつもりなのだろう。

具体的には、中国から北への石油輸出の停止。引き換えにアメリカは、中国主導(表面上は「韓国主導」でもよい)の半島統一を許すかもしれない。

金正恩は米中共同のあらゆる策謀の末、結局何らかの形で排除されるだろう。

中国主導の半島の統一とは、つまり半島から米軍が撤収するということ。それは38度線が対馬の北まで下りてくることを意味する。日本はますますアメリカとの軍事同盟を強め、同時に憲法を改正して防衛力も倍増しなければならない。長期的には独自防衛の道を模索する。場合によっては核武装を検討するかもしれないが、それはおそらく米中からの、少なくとも中国からの徹底的な妨害に会うだろう。

逆にアメリカが北の核実験に対抗して攻撃をした場合、韓国、日本に少なからぬ被害が出る可能性が高い。そうなれば、その後アメリカは同盟国からの信頼を決定的に失い、覇権の基盤をゆるがしかねない。

それはやはり、中国にとっては今より有利な状況を生む。ただし長期的には日本の軍備増強、場合によっては核武装というリスクが高まるかもしれない。

もし北が合理的な判断を捨てて先制攻撃に出れば、すなわちソウルや東京または在日米軍を攻撃すれば、アメリカは同盟国に気兼ねなく、むしろ同盟国防衛の大義を得て、思う存分北を攻撃できる。

その場合、韓国も日本もアメリカを責めるわけには行かず、感謝を表明しなければならない。中国は引き続きアメリカの覇権をみとめなければならないだろう。

以上のように考えると、アメリカの軍事的覇権の維持にとって最善のシナリオは、最後のシナリオ、金正恩を徹底的に追い詰めて暴発させることかもしれない。かつて日本を追い詰めたように。

しかし、そこで話はトランプ政権誕生時の振り出しに戻る。そもそもアメリカは今後も一国覇権を続けられるのだろうか。おそらく答えは「否」だろう。だとすると、やはり中国か日本にアジア覇権の一部を委譲するほかない。

いずれにせよ、日本は憲法改正と軍備増強をせざるを得ないだろう。

さもなければ中国の横暴に身を任せるしかない。

2017年4月8日土曜日

シリア政府軍の化学兵器使用 その動機は?

シリア政府軍が空爆で化学兵器を使ったそうだ。
米と西欧の主要国とその主要メディアとNGOがそう主張している。
シリアは否定している。ロシアは十分な証拠がないと主張している。

このタイミングでシリア政府が化学兵器を使用すると彼らにどんなメリットがあるのだろうか。

まず事実を見よう。
この事件の前、戦況はロシアの支援を得た政府軍側に有利で、政府軍の勝利が目前と伝えられていた。
トランプはシリア政府との融和を目指すと公言していた。ロシアとの協力も目指すとしていた。
この事件のあと、トランプはアサドに対する考えを一変させ政府軍への軍事攻撃に踏み切った。ロシアとの対決姿勢を強めた。
この政府軍の化学兵器を伴う空爆による死者は70人ほどだった。
この事件は、北朝鮮の核兵器開発に対してトランプ政権が軍事的対応を示唆した直後、トランプ習近平会談直前に起きた。

さて、アサド政府は「化学兵器を使う」ことで何を得ようとしたのか。また、実際にどんなメリットを得たのか。
まったく見当たらない。
逆に損ばかりだ。

70人余りの人を殺すために国際法で禁止されている大量破壊兵器たる化学兵器使用を強行する必要があったとは到底考えられない。

もし本当にシリア政府の仕業だとしたら、アサドは余程の馬鹿者だ。

では、誰が得したのか。
アサド政府の優勢を覆したい者。
トランプとアサドの仲を裂きたい者。
トランプとロシアの対立を煽りたい者。
シリア紛争を含む中東紛争にアメリカを引き留めたい者。

アメリカはオバマ大統領のときから、世界の警察官として世界中で軍事行動を展開することはもはやできないと公言するようになった。具体的には二地域以上で大規模な軍事展開は出来ないと言い出した。
同時にアジアシフト戦略を言い出した。
つまり、中東への介入の縮小を目指していた。

オバマはそれを公言して実行しようともがいていた。トランプはその戦略を基本的には継承してアメリカファーストを唱え、より鮮やかに(オバマのような優柔不断を晒さずに)それを実現しようと考えた。その戦略の中心がロシアとの融和だ。

大方のメディアは、今回のアメリカの対シリア政府ミサイル攻撃は、トランプの軍事的強硬姿勢を示したことで、中国、北朝鮮に対する強い牽制を果たしたなどと論評している。

これは極めて疑わしい。

アメリカをシリア紛争、中東紛争の泥沼に引きずり込むことは、アジアの覇権を狙う中国の戦略に有利に働く。朝鮮半島の「解決」における中国の主導権を強化する。アメリカはシリア方面に軍事的資源を振り向ける必要から北朝鮮への対応を控えざるを得ないかも知れない。つまり、朝鮮半島統一における中国のより強い関与を認めざるを得ないかも知れない。同時に、アメリカとロシアの接近による中国封じ込めが不可能になる。

シリア政府以外の某国または某勢力の工作員が、空爆被害のどさくさに紛れて一定量のサリンをまいて少数の化学兵器被害者を出すことなど、実行上難しいことではなかろう。

動機の面から考えると、下手人はアサドではない。中国か北朝鮮か軍産複合体かアメリカ内外の反トランプ勢力(グローバリズム勢力)かそれら複数の合作か。

この事件は、朝鮮情勢、東シナ海、南シナ海情勢への影響を考えれば、日本にとっては有利どころか不利に働くことだろう。


2017年2月28日火曜日

愛と成金とオードリー

オードリーヘップバーンが好きだ。

最近BSで『麗しのサブリナ』と『ティファニーで朝食を』を観た。アメリカが自信に満ちていた時代の映画だ。夢と自由の国の物語。

年のせいか世相のせいか、オードリーの魅力そっちのけでアメリカ的価値観にばかり関心が向いた。

二つの物語のテーマはおよそ同一だ。成金に憧れつつ結局は純粋無垢な愛を選ぶということに尽きる。

ハリウッド十八番のテーマだ。

アメリカ国民は、さらにはアメリカに憧れた私たち世界中の大衆が、このハリウッドの美しい物語から大いなる娯楽を享受してきたわけだが・・・はたしてアメリカは、そして私たちは、本当に拝金主義を去って清き愛に即いて来ただろうか。

愚問だろう。

実際は逆で、いつも純粋無垢な愛に憧れながら、結局拝金主義にどっぷり浸かってここまで来たのだ。

さらに穿てば、私たちはハリウッド映画を見ながら、顕在意識では愛を選ぶ美しい物語に賛同する自分を祝福しつつ、あるいはそれを免罪符として、潜在意識では映画のプロットの主要部分を占める成金の価値観に対する共感をこそ増殖させてきたのかも知れない。

何もかも金で動かすことのできる大富豪やら、ニューヨークの華麗な日常やらへの憧れ。それがアメリカ映画を見る本当の動機だったのではないだろうか。

アメリカこそ、いやハリウッドこそ世界の愛と拝金にまつわる欺瞞を象徴する存在である。

その象徴中の象徴があの絢爛豪華なアカデミー賞授賞式だろう。今年の授賞式は昨日執り行われた。

究極の成金趣味とスノビズムの祭典。そこでの愛と人道の謳歌。

テレビで式を垣間見る度に感じて来たこの矛盾を今回ほど強く感じたことは無い。

オードリーの実人生を知ると、それがこの欺瞞と矛盾に投げかける強烈な皮肉のようにも思えてくる。

アメリカ全盛時代の物語、つまり本来のアメリカの価値観が、今のアメリカの荒廃を生み出したのだ。

トランプ大統領に牙を剥くグローバリズム・リベラル勢力もトランプ大統領自身も、この同じ価値観から生れ出た異形の双子だ。

しかし、それはアメリカの話で終わらない。私たち日本人もまたその他の国の人々も、少なくとも20世紀の半ば以降、アメリカの価値観、矛盾に満ちた価値観を追いかけてきたのだから。

毎日毎日日本のテレビで繰り返される「セレブ」なるものに対する賛歌を見よ。

この欺瞞からすぐに抜け出すことはできないだろう。欺瞞を自覚することがささやかな歯止になることは確かだろう。自覚しなければさらに住みにくい世界に向かって行かざるを得ないだろう。