2017年2月28日火曜日

愛と成金とオードリー

オードリーヘップバーンが好きだ。

最近BSで『麗しのサブリナ』と『ティファニーで朝食を』を観た。アメリカが自信に満ちていた時代の映画だ。夢と自由の国の物語。

年のせいか世相のせいか、オードリーの魅力そっちのけでアメリカ的価値観にばかり関心が向いた。

二つの物語のテーマはおよそ同一だ。成金に憧れつつ結局は純粋無垢な愛を選ぶということに尽きる。

ハリウッド十八番のテーマだ。

アメリカ国民は、さらにはアメリカに憧れた私たち世界中の大衆が、このハリウッドの美しい物語から大いなる娯楽を享受してきたわけだが・・・はたしてアメリカは、そして私たちは、本当に拝金主義を去って清き愛に即いて来ただろうか。

愚問だろう。

実際は逆で、いつも純粋無垢な愛に憧れながら、結局拝金主義にどっぷり浸かってここまで来たのだ。

さらに穿てば、私たちはハリウッド映画を見ながら、顕在意識では愛を選ぶ美しい物語に賛同する自分を祝福しつつ、あるいはそれを免罪符として、潜在意識では映画のプロットの主要部分を占める成金の価値観に対する共感をこそ増殖させてきたのかも知れない。

何もかも金で動かすことのできる大富豪やら、ニューヨークの華麗な日常やらへの憧れ。それがアメリカ映画を見る本当の動機だったのではないだろうか。

アメリカこそ、いやハリウッドこそ世界の愛と拝金にまつわる欺瞞を象徴する存在である。

その象徴中の象徴があの絢爛豪華なアカデミー賞授賞式だろう。今年の授賞式は昨日執り行われた。

究極の成金趣味とスノビズムの祭典。そこでの愛と人道の謳歌。

テレビで式を垣間見る度に感じて来たこの矛盾を今回ほど強く感じたことは無い。

オードリーの実人生を知ると、それがこの欺瞞と矛盾に投げかける強烈な皮肉のようにも思えてくる。

アメリカ全盛時代の物語、つまり本来のアメリカの価値観が、今のアメリカの荒廃を生み出したのだ。

トランプ大統領に牙を剥くグローバリズム・リベラル勢力もトランプ大統領自身も、この同じ価値観から生れ出た異形の双子だ。

しかし、それはアメリカの話で終わらない。私たち日本人もまたその他の国の人々も、少なくとも20世紀の半ば以降、アメリカの価値観、矛盾に満ちた価値観を追いかけてきたのだから。

毎日毎日日本のテレビで繰り返される「セレブ」なるものに対する賛歌を見よ。

この欺瞞からすぐに抜け出すことはできないだろう。欺瞞を自覚することがささやかな歯止になることは確かだろう。自覚しなければさらに住みにくい世界に向かって行かざるを得ないだろう。