2017年4月20日木曜日

半島有事の今後

ここへ来て「アメリカは攻撃するつもりがなかった」との報道と解説が相次いでいる。「主に日韓に甚大な被害がでるリスクが高いから」だという。

私が14日の夜にこのブログに書いたことだ。

「しかし、アメリカは本気度を北朝鮮と中国に思い知らせたのだ」というのが大方の解説だ。ここが私の考えと異なる。

私のような素人が公開情報をもとに推定し得る事情が、北朝鮮であれ中国であれ戦略ないし情報の専門機関の分析で解らない訳がない。もちろん日本当局も知っている。

関係諸国が皆分かっていてなお真面目に狂言を演じ会うのは、わずかな不確実性をめぐっての政治的化かし合い、とぼけ合いでもあり、それぞれの自国民および他国に向けての情報戦でもあるのだろう。

トランプ政府が中国や北朝鮮が怖じけづいたと本気で信じているとしたら、それこそ危ない。

やはり、アメリカと中国が朝鮮半島の将来とその他イシューを踏まえてなんらかの大合意を結んだか結ぼうとして、政治的即興劇を演じ合っているのだろう。

大合意とはもちろん(取り敢えずは)アジアにおける米中間の覇権の分担だ。

そこで米中が模索する朝鮮半島の将来像は、共通利害である非核化を大前提として、両勢力の実質的境界線を今までどおり38度線とするのか対馬の北に直すのかのどちらかだろう。

アメリカが、そして日本までも、あれだけ「中国の役割」が鍵だなどと宣伝しているところをみれば、後者が予定されていると見たほうがよさそうだ。もし前者だとしたら、中国はタダ働きをしたことになる。それはないだろう。

もし中国が手を尽くしても北から核を取り上げることができなかったら、アメリカが半島を取りにかかるのか、38度線で手を打つのか。
それはひとえにアメリカと北の対決の結果次第だろう。

しかし、結果以前にプロセスがまず恐ろしい。

2017年4月15日土曜日

トランプは北朝鮮を攻撃しない

トランプは「北朝鮮が核実験をやるとの確証に至れば攻撃するぞ。」と言っている。

ただし条件をつけている。第一に中国が適切な行動を取らないこと。第二に韓国が同意すること。

そして今トランプは、「中国はよく動いている。習は素晴らしい。」などと言っている。韓国が同意しないことはまず確実だ。

つまり、北の核実験があろうがなかろうが、ぎりぎりのところでアメリカは攻撃をふみとどまる、というシナリオができているのではなかろうか。

そのうえで、その後、米中の合意と協力に基づいて、一定の時間をかけて金正恩を押さえ込むつもりなのだろう。

具体的には、中国から北への石油輸出の停止。引き換えにアメリカは、中国主導(表面上は「韓国主導」でもよい)の半島統一を許すかもしれない。

金正恩は米中共同のあらゆる策謀の末、結局何らかの形で排除されるだろう。

中国主導の半島の統一とは、つまり半島から米軍が撤収するということ。それは38度線が対馬の北まで下りてくることを意味する。日本はますますアメリカとの軍事同盟を強め、同時に憲法を改正して防衛力も倍増しなければならない。長期的には独自防衛の道を模索する。場合によっては核武装を検討するかもしれないが、それはおそらく米中からの、少なくとも中国からの徹底的な妨害に会うだろう。

逆にアメリカが北の核実験に対抗して攻撃をした場合、韓国、日本に少なからぬ被害が出る可能性が高い。そうなれば、その後アメリカは同盟国からの信頼を決定的に失い、覇権の基盤をゆるがしかねない。

それはやはり、中国にとっては今より有利な状況を生む。ただし長期的には日本の軍備増強、場合によっては核武装というリスクが高まるかもしれない。

もし北が合理的な判断を捨てて先制攻撃に出れば、すなわちソウルや東京または在日米軍を攻撃すれば、アメリカは同盟国に気兼ねなく、むしろ同盟国防衛の大義を得て、思う存分北を攻撃できる。

その場合、韓国も日本もアメリカを責めるわけには行かず、感謝を表明しなければならない。中国は引き続きアメリカの覇権をみとめなければならないだろう。

以上のように考えると、アメリカの軍事的覇権の維持にとって最善のシナリオは、最後のシナリオ、金正恩を徹底的に追い詰めて暴発させることかもしれない。かつて日本を追い詰めたように。

しかし、そこで話はトランプ政権誕生時の振り出しに戻る。そもそもアメリカは今後も一国覇権を続けられるのだろうか。おそらく答えは「否」だろう。だとすると、やはり中国か日本にアジア覇権の一部を委譲するほかない。

いずれにせよ、日本は憲法改正と軍備増強をせざるを得ないだろう。

さもなければ中国の横暴に身を任せるしかない。

2017年4月8日土曜日

シリア政府軍の化学兵器使用 その動機は?

シリア政府軍が空爆で化学兵器を使ったそうだ。
米と西欧の主要国とその主要メディアとNGOがそう主張している。
シリアは否定している。ロシアは十分な証拠がないと主張している。

このタイミングでシリア政府が化学兵器を使用すると彼らにどんなメリットがあるのだろうか。

まず事実を見よう。
この事件の前、戦況はロシアの支援を得た政府軍側に有利で、政府軍の勝利が目前と伝えられていた。
トランプはシリア政府との融和を目指すと公言していた。ロシアとの協力も目指すとしていた。
この事件のあと、トランプはアサドに対する考えを一変させ政府軍への軍事攻撃に踏み切った。ロシアとの対決姿勢を強めた。
この政府軍の化学兵器を伴う空爆による死者は70人ほどだった。
この事件は、北朝鮮の核兵器開発に対してトランプ政権が軍事的対応を示唆した直後、トランプ習近平会談直前に起きた。

さて、アサド政府は「化学兵器を使う」ことで何を得ようとしたのか。また、実際にどんなメリットを得たのか。
まったく見当たらない。
逆に損ばかりだ。

70人余りの人を殺すために国際法で禁止されている大量破壊兵器たる化学兵器使用を強行する必要があったとは到底考えられない。

もし本当にシリア政府の仕業だとしたら、アサドは余程の馬鹿者だ。

では、誰が得したのか。
アサド政府の優勢を覆したい者。
トランプとアサドの仲を裂きたい者。
トランプとロシアの対立を煽りたい者。
シリア紛争を含む中東紛争にアメリカを引き留めたい者。

アメリカはオバマ大統領のときから、世界の警察官として世界中で軍事行動を展開することはもはやできないと公言するようになった。具体的には二地域以上で大規模な軍事展開は出来ないと言い出した。
同時にアジアシフト戦略を言い出した。
つまり、中東への介入の縮小を目指していた。

オバマはそれを公言して実行しようともがいていた。トランプはその戦略を基本的には継承してアメリカファーストを唱え、より鮮やかに(オバマのような優柔不断を晒さずに)それを実現しようと考えた。その戦略の中心がロシアとの融和だ。

大方のメディアは、今回のアメリカの対シリア政府ミサイル攻撃は、トランプの軍事的強硬姿勢を示したことで、中国、北朝鮮に対する強い牽制を果たしたなどと論評している。

これは極めて疑わしい。

アメリカをシリア紛争、中東紛争の泥沼に引きずり込むことは、アジアの覇権を狙う中国の戦略に有利に働く。朝鮮半島の「解決」における中国の主導権を強化する。アメリカはシリア方面に軍事的資源を振り向ける必要から北朝鮮への対応を控えざるを得ないかも知れない。つまり、朝鮮半島統一における中国のより強い関与を認めざるを得ないかも知れない。同時に、アメリカとロシアの接近による中国封じ込めが不可能になる。

シリア政府以外の某国または某勢力の工作員が、空爆被害のどさくさに紛れて一定量のサリンをまいて少数の化学兵器被害者を出すことなど、実行上難しいことではなかろう。

動機の面から考えると、下手人はアサドではない。中国か北朝鮮か軍産複合体かアメリカ内外の反トランプ勢力(グローバリズム勢力)かそれら複数の合作か。

この事件は、朝鮮情勢、東シナ海、南シナ海情勢への影響を考えれば、日本にとっては有利どころか不利に働くことだろう。